親の財布から子どもがお金を盗んだら…子育ての博士が「叱らず、励ます」を選ぶ理由
多くの親が子育ての中で悩むのが、「子どもの叱り方」です。
ドロシー・ロー・ノルトさんによる詩、「子は親の鏡」には、「叱りつけてばかりいると、子どもは『自分は悪い子なんだ』と思ってしまう」という一文があります。
必要なことはきっぱりと伝えつつ、必要以上に叱りすぎないためのコツはあるのでしょうか。たとえば、親の財布からお金を抜いてしまった子に対して、親がとるべき態度とは?
ドロシーさん流の叱り方のコツを、詩をより掘り下げた著書、『子どもが育つ魔法の言葉』より抜粋してご紹介します。
※本稿は、ドロシー・ロー・ノルト著、レイチャル・ハリス著、石井千春訳『子どもが育つ魔法の言葉』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。
叱りつけてばかりいると、子どもは「自分は悪い子なんだ」と思ってしまう
子育てをしていくうえで、子どもに善悪の判断を教えることは、とても大切なことです。善悪の判断を学ぶことは、わたしたち人間にとって、一生とまではいかなくても、長い時間のかかることだからです。
人のおもちゃを横取りしてはいけない、お菓子を買ったらお金を払わなくてはいけない、カンニングは悪いことだ……子どもへの躾は、最初はそんなことから始まります。そして、子どもが成長するにしたがって、もっと複雑な道徳的問題にも触れることになります。……嘘をついてもいいのか、友だちの不正を見つけたらどうしたらいいのか。そんな問題を、子どもに考えさせてゆくことになるのです。何が正しくて、何が間違っているかを判断する力は、人が一生かけて培ってゆくものです。子どもは、親とともに、その長い道のりの最初の一歩を踏み出すのです。
では、どうやって、子どもに正邪の基準を教えたらいいのでしょうか。親の姿を見習って、よい子に育ってほしいと親は願うものです。しかし、子どもが実際に悪いことをしてしまったときには、どう対処すればいいのでしょうか。たとえば、誰かを傷つけたり、わざと物を壊したりしたときにはどうしたらいいのでしょうか。
まず、「そんなことになると分かっていたら、許さなかった」と、子どもにきっぱり言うべきなのです。そして、なぜそんなことになってしまったのかを考えさせ、自分の行為を恥じさせ、反省させなくてはなりません。ときには、同じ失敗を繰り返さないように罰を与えることも必要でしょう。
けれど、子どもが必要以上に自分のことを恥じないように、また無益なコンプレックスを抱かないように注意する必要があります。子どもを責め、厳しく叱りすぎると、子どもは自信を失い、自分をだめな人間だと思うようになってしまいます。あまりにも厳しく子どもに接するのはよくないことです。厳しい罰を与えるよりも、子どもを支え、励ましたほうが、子どもはよく学ぶものなのです。
ほとんどの場合、子どもは、自分では意識せずに悪いことをしてしまうものです。たとえば、ほかの子から思わずおもちゃを取り上げてしまったり、台所を散らかしてしまったり、無断で人の物を使ったり……。こんなときは、親は、なぜそれがよくないことなのか、どうやって責任を取ったらよいのかを教えなくてはなりません。
厳しく叱るよりも、子どもを励ますほうがいい
子どもが何か悪いことをしたとき――物を盗んだり、嘘をついたり、人を騙したりしたとき――ふつう、わたしたち親は、まず怒り、そして、子どもを悪いと決めつけてしまいがちです。しかし、その前に、子どもの側の話も聞いてほしいのです。子どもは、自分が悪いことをしたとは知らなかったのかもしれないからです。それを悪いことだと教えるのが親の役目なのです。まず、どうしてそんなことになってしまったのか、子どもの話をよく聞きましょう。そして、その後で、どうすべきであったのか、それを教えるのです。子どもを悪いと決めつけ、頭ごなしに叱るのは決してよいことではありません。
ある日、お母さんはおかしなことに気づきました。手提げの中に入れておいた財布の口が開いていて、中の小銭が全部消えているのです。家には、お母さんと7歳のメリッサだけでした。お母さんは、メリッサの部屋へ行き、事実だけを聞こうと思いました。
「お財布の中の小銭が全部なくなってるんだけど」
人形遊びをしていたメリッサは、顔を上げました。お母さんは続けました。
「お財布の口が開いていたんだけど。普段は、こんなことないのに。メリッサ、知ってる?」
メリッサは口を開きました。
「アイスクリーム屋さんの車が来て、アイスを買いたかったんだけど、お母さんは電話してて、それで、自分でお金を出したの。お財布の口は開けっぱなしにしちゃったみたい。ごめんなさい」
お母さんは、思わず微笑みを誘われましたが、表情は変えませんでした。メリッサが謝ったのはよいことです。でも、謝るべきことが間違っています。お母さんはメリッサの脇に腰を下ろし、やさしい声で、しかし、きっぱりと言いました。
「お財布はお母さんのものよ。お母さんは、メリッサのお財布から黙ってお金を取ったりしないわ。メリッサも、お母さんのお財布から黙ってお金を取ったら、それはいけないことなのよ」
もし、メリッサがお金を取ったのが初めてのことだったら、お小遣いのなかからお金を返させるようにすればいいでしょう。もし、これで二度目だったら、たとえば、大好きなテレビ番組を見せないことにするのもいいかもしれません(もし、これがメリッサの盗癖だったとしたら、お母さんはカウンセラーに相談するなどして、根本的な解決策を考えなくてはならないでしょう)。
お母さんは、「メリッサを責めているわけではない。でも、無断でお金を取ることは悪いことなのだ」ということをメリッサに教えようとしたのです。これなら、メリッサは、自分のしたことを反省はしても、自分が悪い子なのだとは思わずにすみます。
次にお母さんは、このような質問をして、メリッサにどうしたらいいかを考えさせました。
「メリッサの話は分かったわ。アイスのお金が欲しかったけど、お母さんは忙しそうだったのよね。でも、黙ってお金を取ったのは、いけないことだったわね。どうすればよかったと思う?」
メリッサは考えました。
「お母さんのこと待ってればよかったのかもしれないけど、でも、それじゃアイスクリーム屋さんは行っちゃったわ」
そして、また少し考えて言いました。
「子豚の貯金箱から、お金を出せばよかったんだ」
「そうね」。お母さんは頷きました。
「メモを書いて、電話してるお母さんに見せればよかった」
「それでもよかったわね」
「アイスは買わないことにすればよかった?」
メリッサは、小さな声で聞きました。
「そんなことはないわ」。お母さんは、笑いながらメリッサを抱き寄せました。
「でも、今度からは、お金が欲しいときには、お母さんにちゃんとお話ししてね」
お母さんは、こうして、どうすればよかったのかをメリッサに自分で考えさせました。このほうが、子どもを責めて必要以上に罪悪感を植えつけるよりも、ずっと効果的なのは言うまでもありません。子どもは、自分で考え出したことにはやる気をみせるものですから。
『子どもが育つ魔法の言葉』(ドロシー・ロー・ノルト著,レイチャル・ハリス著,石井千春訳,PHP研究所刊)
認めてあげれば、子どもは自分が好きになる。――世界37カ国の親たちを励ました、個性豊かで挫けない子どもを育てるための知恵と言葉。